大衆魚の王様、初夏を泳ぐ。
味がいいから「アジ」。何ともストレートな名前の由来だけれど、それほど昔から私たちの食生活に馴染んだ魚だと言えるでしょう。なにしろ縄文時代の貝塚からも骨が出土しているほどですから。
意外なあの魚もアジの仲間
北は北海道南部から南は朝鮮半島まで、広い海域で獲れるアジ。1年で体長15㎝ほど、2年ものになると25㎝ほどの大きさまで成長します。中には1mを超えるロウニンアジという種もおり、広くはブリ、カンパチ、ヒラマサなどもアジ科の仲間です。産卵のために栄養を蓄える春から晩夏にかけてがアジの旬。特に初夏のアジは脂ののりも旨みの濃さも最高です。
小骨が口にさわらないよう、丁寧に
「梅雨が来て海に真水が入るとアジはおいしくなる、と言われています」と店長の髙橋さん。この日に入荷したのは長崎のアジ。アジやイワシのうまい店はいい店と言われる通り、『うまい鮨勘』では時季によって最高のアジを求め仕入れる港を変えています。鱗を取ったら頭を落とし、腹の中を掃除して氷の入った塩水へ。こうすることで身がきゅっと締まり、ツヤが戻るのです。三枚におろしたら腹骨を外し、小骨は「骨抜き」で一本一本丁寧に抜き取っていきます。
青魚のおいしさ、ここに極まれり。
皮を引き剥いたら、銀色をまとった真っ白な脂がお目見え。柔らかな身をさらに柔らかく味わえるよう飾り包丁を入れて、シャリとアジとの間にワサビとともにアサツキを挟んで握りこみます。天にはおろし生姜とアサツキ。 生姜とアジというまたとない風味の相性を受けて、シャリにからみつくようにアジがふんわりと一体化していきます。甘い脂の味わいの奥から、青魚ならではのすっきりとした旨みがじんわりと滲みます。「アジはたくさん獲れるから大衆魚の代表だけれど、そのおいしさもやっぱり代表格だと思うんですよ。最高の鮮度にちゃんと手間をかけてあげれば、これほどおいしい魚もないです」。髙橋さんの言葉に大いに頷きます。
アジは酒肴でも絶品!日本酒とともに楽しむ一品
アジの一大漁場である房総半島で生まれた「なめろう」は、「皿まで舐めるほどうまい」が名の由来。三枚におろしたアジを包丁で叩き、味噌、香味野菜と和える料理です。髙橋さんはネギ、大葉、おろし生姜、ミョウガ、胡麻を合わせました。「お家で作る時にアジの身の脂が薄いようなら、胡麻油を少し足して作るとコクが増しますよ」。
最高級の焼き海苔と一緒に味わえるのは『うまい鮨勘』ならでは。アジの旨みの中でさまざまな薬味の香味が花火のように弾けて、後をひくおいしさ。梅肉のアクセントがまたいい相性です。
ざくざくに刻んだアジの身でもう一品。地元・仙台味噌とニンニクを合わせて馴染ませたニンニク味噌と和え、お酒に添えました。ニンニクとアジ、どちらの風味も消えることなく際立って、宮城三陸の純米酒がすいすいと進みます。
うまい鮨勘 総本店
髙橋勇吾 店長
石巻市出身。16歳で板前を志し、以来、職人一筋40年。何事も“いい塩梅”を心掛け、その魚本来が持つおいしさを十分に引き出すことを常としている。朗らかな人柄、確かな腕はカウンター席にたくさんの常連を生み、「勇吾店長が握る寿司が食べたい!」という声も多い。